【歯科医師が解説】虫歯の進行止めとは?削らない治療のメリット・デメリット
皆さん、こんにちは。
神戸市西区にある「おち歯科クリニック」の院長 越智敏幸です。
目次
虫歯の進行止めをご存知ですか?
「歯を削りたくない」と願うすべての患者様へ
歯医者さんに行きたくない理由として、「歯を削るのが怖い」「あのキーンという音が苦手」と感じる方は少なくありません。
特に、小さなお子様が虫歯になってしまった保護者様にとっては、「できれば痛い思いをさせずに治療してあげたい」と願うのは当然のことでしょう。虫歯治療は、悪くなった部分を取り除くために歯を削ることが基本ですが、近年、特定の条件下で歯を削らずに虫歯の進行を抑える「進行止め」という治療法が注目されています。
この記事では、歯科医師の立場から、虫歯の進行止めとはどのような治療なのか、そのメリットとデメリットについて、専門的な知識がない方にも分かりやすく解説していきます。神戸市西区で歯医者をお探しの皆様が、安心して治療を選択するための一助となれば幸いです。
そもそも、なぜ虫歯はできるのでしょうか?
虫歯ができてしまう仕組み
虫歯の進行止めについて知る前に、まずは虫歯ができる基本的なメカニズムをご理解いただくことが重要です。虫歯は、単に甘いものを食べたから、歯磨きを怠ったからという単純な理由だけで発生するわけではありません。お口の中に存在する「虫歯菌(ミュータンス菌など)」、菌のエサとなる「糖分」、そして虫歯菌の酸に弱い「歯の質」という3つの要因に、「時間の経過」が加わることで初めて発生します。これら4つの輪が重なり合った時に、歯の表面からカルシウムやリンといったミネラルが溶け出し始めます。この状態を「脱灰(だっかい)」と呼び、虫歯の始まりとなります。私たちの唾液には、この溶け出したミネラルを修復する「再石灰化(さいせっかいか)」という素晴らしい働きがありますが、脱灰のスピードに再石灰化が追いつかなくなると、やがて歯に穴が開いてしまうのです。
虫歯の進行度合いについて
虫歯は進行度によってC0からC4までの段階に分けられます。C0はごく初期の虫歯で、歯の表面が白く濁っている状態です。この段階であれば、フッ素の利用や丁寧な歯磨きで再石灰化を促し、削らずに治せる可能性があります。C1はエナメル質に小さな穴が開いた状態、C2は象牙質まで虫歯が進行し、冷たいものや甘いものがしみることがあります。C3は歯の神経まで虫歯が達し、激しい痛みを伴います。そしてC4は歯の大部分が溶けてなくなり、根だけが残った状態です。虫歯の進行止めは、主に乳歯のC1やC2、あるいは永久歯でも治療が困難な特定の状況で選択されることが多い治療法です。
「虫歯の進行止め」とは一体どんな治療?
虫歯の進行を食い止めるお薬です
虫歯の進行止め治療とは、その名の通り、虫歯になってしまった部分に特殊な薬液を塗ることで、虫歯の進行を抑制する治療法です。専門的には「フッ化ジアンミン銀」という成分を含んだお薬(商品名:サホライドなど)が一般的に用いられます。この薬液には、虫歯菌を殺菌する強力な効果と、歯の質を硬くして酸に溶けにくくする効果があります。治療方法は非常にシンプルで、虫歯の部分の汚れを簡単にお掃除した後、薬液を歯に塗布するだけです。歯を削るドリルや麻酔注射を使用しないため、患者様、特に小さなお子様や歯科治療に強い恐怖心をお持ちの患者様にとって、心身への負担が非常に少ない治療と言えます。ただし、この治療は虫歯を完全に「治す」ものではなく、あくまで「進行を食い止める」ことを目的としている点を理解しておくことが何よりも大切です。
どんな患者様に適している治療法ですか?
虫歯の進行止めは、すべての虫歯に適応できるわけではありません。この治療法が特に有効とされるのは、主に乳歯の虫歯です。乳歯はいずれ永久歯に生え変わるため、見た目の問題よりも、まずは虫歯の進行を止めて永久歯への影響を最小限に抑えることが優先される場合があります。また、お子様が小さすぎて治療中にじっとしているのが難しい場合や、歯科治療への協力が得られにくい場合にも、負担の少ないこの治療が選ばれることがあります。その他、ご高齢で体力が低下している患者様や、何らかの全身疾患をお持ちで、大掛かりな歯科治療が難しい患者様の虫歯に対しても、進行を抑制する目的で用いられることがあります。
知っておきたい、虫歯の進行止めの大きなメリット
メリット1:歯を削らず、痛みがほとんどないこと
最大のメリットは、歯を削らずに治療できる点です。歯を削る際の「キーン」という音や振動は、多くの方が苦手意識を持っています。進行止め治療は、薬液を塗るだけなので、これらの不快感を伴いません。また、歯を削らないため麻酔注射も不要で、治療中の痛みはほとんど感じることはありません。歯科医院に対して「怖い」「痛い」というイメージを持っている患者様にとって、治療へのハードルを大きく下げてくれる非常に優しい治療法です。
メリット2:治療時間が短く、患者様の負担が少ないこと
一連の治療は、お口の中の確認、簡単な清掃、薬液の塗布という流れで進み、数分で完了します。長時間お口を開けている必要がないため、小さなお子様やご高齢の患者様でも、疲れを感じることなく治療を受けられます。治療が一度で終わることも多く(経過観察は必要です)、通院回数を少なくできる可能性もあります。このように、時間的にも身体的にも患者様の負担を大幅に軽減できるのが、進行止め治療の優れた点です。
必ず理解すべき、虫歯の進行止めのデメリットと注意点
デメリット1:治療した部分が黒く変色してしまうこと
虫歯の進行止め治療における最も大きなデメリットであり、必ずご理解いただきたいのが「歯の変色」です。使用する薬液に含まれる「銀」の成分が、虫歯の部分に沈着することで、その部分が黒く変色します。この変色は元に戻すことができません。奥歯であればあまり目立ちませんが、笑った時に見える前歯など、見た目が気になる部分への適用は慎重に検討する必要があります。特に永久歯に使用する際は、この審美的な問題を患者様としっかり相談した上で決定することが不可欠です。
デメリット2:虫歯が完全に治るわけではないこと
繰り返しになりますが、この治療は虫歯の進行を「抑制」するものであり、虫歯によってできた穴が元通りに塞がるわけではありません。食べかすが詰まりやすくなる可能性は残りますし、口腔内の環境が悪化したり、ブラッシングが不十分だったりすると、黒くなった部分の下で再び虫歯が進行してしまうリスクもゼロではありません。あくまでも、それ以上悪化させないための「応急処置」に近い側面も持っているとご理解ください。
デメリット3:定期的な経過観察とセルフケアが不可欠なこと
薬液の効果は永続的ではないため、一度塗ったら終わりというわけにはいきません。治療後も、進行がきちんと止まっているか、再発していないかなどを確認するために、歯科医院での定期的なチェックが必須となります。場合によっては、効果を持続させるために、半年から1年ごとに薬液を再塗布することもあります。また、治療したからと安心せず、ご自宅での毎日の丁寧な歯磨きや、糖分の摂取をコントロールするといったセルフケアが、これまで以上に重要になることも忘れてはなりません。
まとめ:虫歯で悩んだら、まずは歯医者さんにご相談ください
最適な治療法は患者様一人ひとり異なります
ここまで、虫歯の進行止め治療について詳しく解説してきました。この治療法は、「歯を削らない」「痛みが少ない」「治療時間が短い」といった大きなメリットがある一方で、「歯が黒くなる」「虫歯が治るわけではない」「定期的な管理が必要」といったデメリットも併せ持つ、非常に特徴的な治療法です。特に乳歯の虫歯や、治療が困難な状況にある患者様にとっては、非常に有効な選択肢の一つとなり得ます。しかし、その適用は虫歯の深さや場所、患者様の年齢や協力度、そして審美的なご要望などを総合的に判断して決定されるべきものです。自己判断で「進行止めでお願いします」と決めてしまうのではなく、まずは専門家である歯科医師に、ご自身やお子様のお口の中の状態を正確に診てもらうことが何よりも大切です。
神戸市西区の皆様のお口の健康をサポートします
当院では、患者様一人ひとりのお悩みやご希望を丁寧にお伺いし、お口の状態を精密に検査した上で、進行止め治療を含む様々な選択肢の中から、最も適した治療計画をご提案させていただきます。虫歯治療に関する不安や疑問、どんな些細なことでも構いません。どうぞお気軽に私たちにご相談ください。患者様が安心して治療を受け、永くご自身の歯で健康な毎日を送れるよう、スタッフ一同、全力でサポートいたします。
おち歯科クリニック
院長 越智 敏幸