虫歯治療はもう怖くない!歯科医師が教える「痛くない方法」
皆さん、こんにちは。
神戸市西区にある「おち歯科クリニック」の院長 越智敏幸です。
「歯医者さんは痛いし、怖い場所だ」――。多くの方が、このようなイメージをお持ちではないでしょうか。歯が痛むけれど、治療の痛みを考えると、なかなか歯医者さんへ足が向かないというお話もよく伺います。しかし、現代の歯科医療は大きく進歩しており、患者様の痛みや不快感を最小限に抑えるための様々な工夫が凝らされています。
この記事では、歯科医師が、虫歯治療でなぜ痛みを感じるのかという基本的なお話から、最新の「痛くない方法」まで、専門的な知識がない方にも分かりやすく解説していきます。この記事を読み終える頃には、「これなら安心して治療が受けられるかも」と思っていただけるはずです。
目次
なぜ虫歯治療で「痛み」を感じてしまうのでしょうか?
虫歯が進行すると神経に近づくため
まず、虫歯治療が痛いと感じる最も大きな理由は、虫歯が歯の神経に近づいているからです。歯は外側からエナメル質、象牙質、そして中心部に歯髄(しずい)という神経や血管が集まった組織があります。初期の虫歯はエナメル質にとどまっているため、痛みを感じることはほとんどありません。しかし、虫歯が進行して象牙質に達すると、冷たいものや甘いものがしみるようになります。さらに進行し、歯髄にまで虫歯菌が感染してしまうと、何もしなくてもズキズキと激しい痛みを感じるようになります。治療では、この虫歯に侵された部分を取り除く必要がありますが、特に歯髄に近い部分を削る際には、神経に刺激が伝わりやすく、痛みを感じやすくなるのです。
治療そのものに対する恐怖心や緊張
もう一つの理由は、治療に対する心理的な要因です。過去に痛い思いをした経験や、「キーン」という歯を削る独特の音、治療器具が口の中に入ってくることへの恐怖心や緊張感が、痛みをより強く感じさせてしまうことがあります。体や心に力が入っていると、普段なら気にならないようなわずかな刺激にも敏感に反応してしまうのです。リラックスして治療を受けていただくことが、痛みを和らげる上で非常に重要になります。私たち歯科医院側も、患者様が少しでも安心して治療に臨めるような環境づくりを心掛けています。
歯科医院で行う「痛みをなくす」ための様々な工夫
治療で最も大切な「麻酔」の痛みを減らす方法
虫歯治療の痛みをコントロールする上で、最も重要なのが麻酔です。しかし、「麻酔の注射そのものが痛くて苦手」という患者様も少なくありません。そこで、多くの歯科医院では、麻酔注射の痛みを極力なくすために、段階的で丁寧な手順を踏んでいます。
▶まずは塗る麻酔から「表面麻酔」
注射針を刺す前に、歯茎の表面に麻酔薬を塗布します。これが「表面麻酔」です。ジェル状やスプレー状の麻酔薬を歯茎に塗ることで、粘膜の感覚を麻痺させ、注射針が刺さるときの「チクッ」とした痛みをほとんど感じなくさせることができます。お子様の治療ではもちろんのこと、痛みに敏感な大人の患者様にも必ず使用しています。この一手間を加えるだけで、麻酔への恐怖心は大きく和らぎます。
▶針のチクッとした痛みを軽減する「極細の注射針」
表面麻酔で感覚を鈍らせた上で、使用する注射針にも工夫があります。現在、歯科治療で使われている注射針は、採血などで使われる針に比べて非常に細いものが開発されています。針が細ければ細いほど、組織を傷つける面積が小さくなり、痛みを感じにくくなります。当院でも、細い規格の針を採用し、患者様の負担を軽減するよう努めています。
▶圧力をコントロールして痛みを抑える「電動麻酔器」
麻酔の痛みは、針を刺すときだけでなく、麻酔液を注入する際の圧力によっても生じます。手動の注射器では、どうしても力の入れ具合にムラが生じ、急激に圧力がかかると細胞が膨張して強い痛みを感じてしまいます。そこで活躍するのが「電動麻酔器」です。この機械を使うと、コンピューター制御によって麻酔液をゆっくりと一定の速度で注入することができます。これにより、注入圧による痛みを最小限に抑えることが可能となり、患者様は「いつ麻酔をされたか分からなかった」とおっしゃることも少なくありません。
▶麻酔液の温度にも配慮しています
細かい点ですが、麻酔液の温度も痛みの感じ方に影響します。体温と麻酔液の温度に差があると、注入時に刺激や痛みとして感じてしまうことがあります。そのため、事前に麻酔液を人肌に近い温度に温めておくという配慮を行っています。このような細やかな工夫の積み重ねが、患者様の感じる痛みをトータルで軽減することにつながるのです。
虫歯を削るときの痛みを和らげる工夫
麻酔がしっかりと効けば、歯を削っている最中の痛みはほとんど感じることはありません。しかし、それでも「削る」という行為自体に不安を感じる方もいらっしゃいます。
▶必要以上に削らないための「う蝕検知液」
虫歯治療の基本は、虫歯に感染した部分だけを正確に取り除き、健康な歯を可能な限り残すことです。健康な歯を余計に削ってしまうと、歯の寿命を縮めるだけでなく、神経への刺激が大きくなり、治療後の痛みにつながる可能性もあります。「う蝕検知液」という特殊な薬剤は、虫歯に感染した部分だけを赤く染め出すことができます。これにより、歯科医師は削るべき範囲を正確に目で確認できるため、必要最小限の切削で治療を終えることができます。これは、患者様の歯を守るためにも、痛みを抑えるためにも非常に有効な方法です。
▶歯を削る音や振動が苦手な方へ
歯を削る「キーン」という音や振動がどうしても苦手だという患者様もいらっしゃいます。このような場合は、遠慮なくスタッフにお申し付けください。治療中に音楽を聴いていただいたり、少しずつ休憩を挟みながら治療を進めたりと、患者様一人ひとりのご希望に合わせた対応が可能です。歯科医師やスタッフとのコミュニケーションが、安心して治療を受けるための第一歩です。
痛みの少ない治療法の選択肢
初期虫歯に有効なレーザー治療
近年では、治療法の選択肢も増えています。その一つがレーザー治療です。特定の種類のレーザー光を虫歯に照射することで、虫歯の部分だけを蒸発させて取り除くことができます。この治療法は、従来のドリルのような回転器具を使わないため、「キーン」という音や振動がほとんどありません。また、麻酔が不要なケースも多く、痛みを感じにくいのが大きなメリットです。ただし、レーザー治療は全ての虫歯に対応できるわけではなく、主にエナメル質に限局したごく初期の虫歯などが適応となります。
削る量を最小限に抑える薬剤を使った治療
虫歯をできるだけ削らずに治したいというニーズに応えるため、特殊な薬剤を用いて虫歯の進行を抑制したり、無菌化したりする治療法も存在します。例えば、虫歯の部分に特定のセメントを詰めることで、その殺菌作用によって虫歯の進行を止め、歯の再石灰化(歯が自身を修復する力)を促す方法などがあります。この方法も、歯を削る量を最小限にできるため、治療に伴う痛みを大きく軽減できる可能性があります。どの治療法が最適かは、虫歯の深さや場所、患者様のお口の状態によって異なりますので、まずは歯科医師にご相談ください。
そもそも虫歯を作らないことが一番の「痛くない方法」です
虫歯を予防する歯科医院でのプロフェッショナルケア
ここまで痛みの少ない治療法についてお話ししてきましたが、究極の「痛くない方法」は、そもそも虫歯にならないことです。そのためには、ご自宅での毎日の歯磨きはもちろんのこと、歯科医院での定期的なプロフェッショナルケアが欠かせません。歯科衛生士が専門の器具を使って行う歯のクリーニング(PMTC)では、ご自身の歯磨きでは落としきれない歯垢や歯石、バイオフィルムと呼ばれる細菌の膜を徹底的に除去します。これにより、虫歯や歯周病のリスクを大幅に減らすことができます。
早期発見・早期治療がなぜ大切なのか
定期検診に通うもう一つの大きなメリットは、虫歯の早期発見・早期治療につながることです。前述の通り、痛みやしみる症状がないごく初期の虫歯であれば、麻酔を使わずに簡単な処置で治療を終えられることがほとんどです。削る量も最小限で済み、治療回数も少なく、費用も抑えられます。痛くなってから歯科医院に行くのではなく、痛くなる前に予防やチェックのために通う。この習慣こそが、結果的に患者様ご自身の心身の負担、そして経済的な負担を最も軽くする方法なのです。
まとめ:安心して虫歯治療を受けるために
虫歯治療における「痛くない方法」は、決して特別な治療法だけを指すのではありません。麻酔の方法一つひとつへの丁寧な配慮、正確な診断に基づく必要最小限の治療、そして患者様とのコミュニケーションといった、日々の基本的な診療の中にこそ、痛みを和らげるための重要な要素が詰まっています。
「痛いのが怖い」と感じることは、決して恥ずかしいことではありません。大切なのは、そのお気持ちを率直に歯科医師に伝えていただくことです。私たち医療従事者は、患者様のお悩みや不安をしっかりと受け止め、できる限り快適に治療を受けていただけるよう、持てる知識と技術を尽くしてサポートいたします。
もし、歯の痛みやお口のことでお悩みがございましたら、どうか一人で抱え込まず、お近くの信頼できる歯科医院にご相談ください。きっと、あなたの不安に寄り添った治療法を提案してくれるはずです。
おち歯科クリニック
院長 越智 敏幸